まとめ
- 手汗でお困りの方の中には、『原発性局所多汗症』という病気に当てはまる方がいます。
- 2023年以降、『アポハイドローション』という塗り薬が、保険適用で使用可能になっています。
- 決して珍しくない病気なので、お困りの方は気軽に病院でご相談下さい。
2022年にLumediaで書いた記事の中で、「ワキ汗を保険適用で治療できる塗り薬があります」と紹介したことがあります。
当時は手汗に対して保険適用で処方できる塗り薬は無かったのですが、2023年からは手汗に有効な塗り薬も使用可能になっています!
今回の記事では、手汗に関する最新の治療法などについて、皮膚科専門医が解説いたします。
江畑 慧
Satoshi Ebata
医師 / 皮膚科専門医 / 医学博士
原発性局所多汗症とは
「汗っかきなのは体質だから仕方がない」と思っている人は多いのではないでしょうか?
実は、汗が多く出てしまう人の中には『原発性局所多汗症』という病気に当てはまる方がいます。
汗が多い人のうち、「他の病気がないのに、体の一部分のみ (手、足、脇、顔など) に汗がたくさん出過ぎてしまって、日常生活に支障をきたしている状態」の方を、医学的には『原発性局所多汗症』という病気にかかっていると診断します (参考文献 1) 。
手汗など、汗のトラブルで困っている方は、決して珍しくありません。
2009年から2010年にかけて、日本各地の 20 の企業や学校に所属している5歳から64歳までの職員や学生の方々5,807人を対象に、汗に関するアンケート調査が行われました (参考文献 2)。
その調査結果によると、汗が多くて困っている方は、回答者全体の 13.95% もいらっしゃいました。
また、全体の 5.33% の方が、先ほど説明した原発性局所多汗症のうち「手汗タイプ」に該当しました。手汗を発症した年齢の中央値※は13.8歳ということでしたので、子どもの頃からお困りなケースが多いようです。
※中央値・・・数値を小さい方から順に並べたときに真ん中に位置する値
原発性局所多汗症の診断基準
ご自身の手汗が『原発性局所多汗症』に該当するのかどうかについては、次の診断基準が参考になります。
- 全身ではなくて手に限定して汗が出すぎてしまう。
- 特に明らかな原因が思い当たらない。
- 6ヶ月以上にわたって手汗の症状が持続している。
以上の条件すべてに当てはまる方が、
- 25歳以下のときから症状が続いている。
- 両手に症状がある。
- 寝ている間は手汗が止まっている。
- 少なくとも週に1回は手汗をかきすぎてしまう。
- 血のつながっている家族の中に、同じ病気の人がいる。
- 手汗のせいで日常生活に支障をきたしている。
上記の6項目のうち2項目以上を満たしているようでしたら、『原発性局所多汗症』の手汗タイプだと考えられます (参考文献 3) 。
この基準に当てはまった方は、保険適用で手汗治療を受けられる可能性があります。お困りでしたら、病院でご相談なさるとよいでしょう。
手汗に有効な塗り薬
2023年に、原発性局所多汗症による手汗に対して保険適用で処方できる塗り薬が日本では初めて登場しました (参考文献 4,5) 。
『アポハイドローション(オキシブチニン塩酸塩)20% 』という名前の製品です。
この製品は、汗が出てくる「エクリン汗腺」という部分の働きを邪魔することで、手汗の量を抑えてくれます。1日1回、寝る前に、両側の手のひら全体へ薬を5プッシュ分ずつ塗ることで効果を発揮します。
国内で実施された臨床試験では、アポハイドローションの塗布を4週間続けたグループのうち 、52.8% の方々で手汗の量が半分以下に減っていることが確認されました。アポハイドローションを継続して塗っていくことで、多過ぎる手汗が減っていく効果が期待できます。塗り薬ですから、自宅で簡単に治療を続けられますね。
汗トラブルでお悩みの方はお気軽に病院でご相談を!
ワキ汗に続いて手汗でも新しい塗り薬が生まれたことで、汗トラブルでお悩みの患者さんにとっては治療の選択肢が大きく広がりました。
汗のせいで日常生活に影響が出ている方は、「汗が多すぎて恥ずかしいな…」と一人で思い悩むことなく、ぜひお気軽に病院で相談してみてくださいね。
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