まとめ
- 運動時に足がつる原因はまだよく分かっていません。
- 足がつることにバナナが効くという研究結果はありません。
- 効果の実証された予防法はまだありません。
「運動時に足がつるのにはバナナが効く」という話は当たり前のように言われていますよね。でも、それって本当なのでしょうか?そこで、この記事では科学的に実証されているのかどうかを検証してみました!
「バナナが効く」言説の由来
そもそも、「運動時に足がつることにバナナが効く」という話はどこから来たのでしょうか?
まず、血液中に含まれるカリウム ( K ) の濃度が極端に低くなると、筋肉が痙攣 (けいれん) をおこすということはわかっています (参考文献 1) 。それに対して、バナナはお米やパンに比べてカリウムを多く含みます (参考文献 2) 。こうしたことから、「バナナを食べることでカリウムを補おう」という発想が出てきたのではないかと考えられます。
ですが、運動によって血中カリウム濃度はそんなにも低くなるのでしょうか?また、バナナを食べるだけでカリウムを十分に補うことができるのでしょうか?
色々な疑問が出てきますね。ここから詳しく検証していきましょう。
そもそも足はどうしてつるのか
運動時に足がつるメカニズムは何なのでしょうか?周りの人に聞いてみると、いろんな答えが返ってくると思います。よく言われる「運動時に足がつる原因」を書き出してみますと、
- 血中の電解質濃度の変化
- 脱水
- 筋疲労
などがあります。どれが一体正しいのでしょうか?一つ一つ見ていきましょう。
「血中の電解質濃度が変化したら足がつる」とは言えない
まず、血中の電解質濃度の変化が筋肉に与える影響についてです。確かにカリウムも電解質の一種ですので、運動することで血中の電解質濃度が変化するならば、もしかしたら血中のカリウム濃度が極端に低くなることがあるかもしれません。すると筋肉の痙攣が起きそうな気がしますよね。
しかし、運動 (トライアスロン) 後に筋肉がつった人とつらなかった人を比較した研究によると、運動後の血中カリウム濃度には大きな差が見られませんでした (参考文献 3) 。つまり、運動した後に血中カリウム濃度が多少変化したからといって、それにより筋肉がつるとは言えないのです。
それではカリウム以外の電解質はどうでしょうか。先ほどの研究では、トライアスロン後に筋肉がつった人はつらなかった人に比べて運動後の血中のナトリウム ( Na ) の濃度が有意に低かったそうです (参考文献 3) 。ということは、血中ナトリウム濃度の変化が足がつる原因になっているのでしょうか?
ところが、運動後の血中ナトリウム濃度は筋肉がつることとは関連がないという研究結果もあります(参考文献 4) 。この研究はトライアスロンの中でも距離の長い「アイアンマンレース」というレースの参加者を調べたものです。この過酷なレースにおいて筋肉がつった人とつらなかった人を比べても、運動後の血中ナトリウムの濃度はそれほど変わらなかったのです。
以上をまとめますと、
- そもそも、運動後に足がつる人とつらない人の間で運動後の血中カリウム濃度に大きな違いがない。
- 運動後の血中ナトリウム濃度には有意な差があるとの報告も一部あるが、まだ十分な検証はされておらず、足がつることに繋がっている根拠はない。
ということがわかりました。
「脱水になると筋肉がつる」とも言えない
次に、脱水はどうでしょうか?脱水状態になると足がつりやすくなるから水分補給をしっかりした方が良い、という話を聞いたことのある人もいるかと思います。
しかし、先ほども紹介したアイアンマンレースの研究によると、運動後に足がつった人とつらなかった人とで運動前後の体重の変化に有意な差はありませんでした (参考文献 3) 。むしろ足がつった人の方がつらなかった人よりも体重が減少しなかったという研究結果もあります (参考文献 5) 。
運動直後に体重が減っているというのは汗で水分が体から放出されたということを意味します。つまりこれらの研究結果からは、運動後の脱水によって筋肉がつるとは言えないということになります。
とはいえ、現状としては脱水が筋肉がつることに全く影響しないとも言い切れず、より正確な結論を出すためにはもっと研究が必要なようです (参考文献 6) 。
筋肉が疲労しているとつりやすくなる?
最後に筋疲労と筋肉のつりやすさの関係を検討してみましょう。
運動中や運動後に筋肉がつった人の多くが、つる前に筋肉の疲れを感じていたという報告があります (参考文献 7) 。既に疲れている状態でさらに筋肉を使った時に筋肉がつった人が多かったということですね。このことから、筋肉の疲れが筋肉の神経支配に異常を引き起こし、筋痙攣すなわち筋肉がつることにつながっているという説があります (参考文献 8) 。
現在の研究結果だけでは筋疲労が筋肉がつる原因とは言い切れないようですが、筋疲労と筋肉がつることには何らかの関係があるかもしれません (参考文献 3) 。
ここまでをまとめますと、よく言われる運動中に足がつる原因のうち、「血中の電解質濃度の変化」と「脱水」には否定的な研究結果が出ていることがわかりました。一方で、「筋疲労」 については、可能性はあるけれどもっと研究が必要という段階のようです(参考文献 3)。
しかしいずれにしてもまだまだ研究が足りないため、正確な原因は分かっていないということが、今回検証してみて分かりました。
実際のところ、バナナは効くのか?
では、バナナを食べた人は実際のところ足がつりにくくなるのでしょうか。実際に運動直後の人にバナナを食べてもらうという研究がありますので、そちらを見てみましょう。
この研究では被験者に激しい運動を行わせた直後、
「2本バナナを食べさせる」
「1本バナナを食べさせる」
「バナナを食べさせない」
のいずれかの対応をしました。そして5分後、15分後、30分後、60分後に血中のカリウム濃度を測定しました。
その結果、バナナを食べた人はバナナを食べなかった人に比べて60分後の血中カリウム濃度が有意に上昇したそうです (参考文献 9)。
ここで、あれ?と思った方もいるのではないでしょうか。そうです、先ほど「血中カリウム濃度の変化と筋肉がつることの間に関連があるとは言えない」と説明しました。バナナを食べることで血中カリウムが上昇するとしても、それが足がつる事にどれだけの効果をもたらしたのかは明らかにされていないのです (参考文献 9)。
そもそもこの研究ではあくまでバナナを食べたことと血中カリウム濃度の関係性を調べているだけで、バナナを食べた人たちがバナナを食べていない人たちに比べて足がつる頻度が少なかったかどうかは調べていません。
やはり、「足がつるのにバナナが効く」という言い伝えには適切な科学的根拠は全く存在しないということになります。
難しいですね。信頼度が高い情報の探し方についてはこちらの記事も参考にしてみてください。
足がつった時の対処法と予防法は?
それでは足がつってしまったらどうすれば良いのでしょう?
おそらく多くの人は既に実践していると思いますが、足がつった時はゆっくりと伸ばすようなストレッチが効果的です。例えば、ふくらはぎがつった場合は、画像のように膝を伸ばして足を背屈 (はいくつ) させましょう (参考文献 10)。
一方で、残念ながら運動時に足がつることに対する科学的に実証された予防法はありません (参考文献 11)。ゆっくり伸ばすようなストレッチも予防には効果的ではありません (参考文献 12)。
まとめ
運動時にどうして筋肉がつるのかという原因については、様々な説を紹介しましたが、まだ最終的な結論はでていないようでした。そして、運動時に足がつることにバナナが効くかどうかは結局のところ「実証されていないので分からない」と考えるのが妥当なようです。
さも当たり前のように言い伝えられている話も、詳しく調べてみると意外と根拠があいまいなこともあります。バナナは食べても健康に害があるわけではないので大きな問題になりませんが、昔から言い伝えられていることであっても鵜呑みしないよう気を付けないといけないですね。
COI
本記事について、開示すべき COI はありません。