まとめ
- データ元の記載を確かめよう! (学会、国、ガイドラインなどの公的なものかどうか。ただの体験談ではないか) 。
- 営利目的の宣伝ではありませんか? (サプリメント、自由診療などに誘導していないか)
- 誇大広告ではありませんか? (良い情報だけでなく、副作用もきちんと書いてあるか)
※本記事は、YouTube「インチキ医療に惑わされないために 勝俣 範之」をベースに作成しております。
インターネットや書籍には多くの医療情報があふれ、中には患者さんを惑わす怪しい情報も存在します。藁にもすがる思いの患者さんを食い物にしてお金儲けする人がいるのです。ときには医師がお金儲けに加担していることも……。下に示す例のように多額のお金を奪われてしまう患者さんもいらっしゃいます。
今回の記事では、「食べ物だけでがんが消えたって本当?」「何が正しい治療なの?」「正しい治療をどうやって見分けるの?」
こうした疑問に、医師が分かりやすくお答えします。
インチキ・トンデモ医療の実態
「消える」「消す」「死滅する」「勝つ」には要注意
たとえば、「食べ物を制限すればがんが消える」という根拠の無い宣伝を信じた結果、病的なレベルにまで体重が落ちてしまった患者さんをお見かけしたことがあります。「がんが消える」という言葉は魅力的で、そのように説明された方が何でも試したくなる気持ちは、我々医師としても大変よくわかります。しかし、がんについて「消える」「消す」「死滅する」「勝つ」などと書かれている言葉は要注意で、疑ってかかる方が良いのです。
薬機法という法律では、「病気を治す・予防するなどの効能効果を宣伝できるのは厚生労働省が承認した場合のみである」と規定されています (参考文献 1) 。つまり、厚労省から承認されていない製品について病気が「治る」と明言すると薬機法違反です。健康食品や未承認の療法などを「消える」「消す」「死滅する」「勝つ」という類の言葉を使って宣伝する行為は、それだけでも薬機法違反すれすれですね。これらの言葉は見ただけで怪しいと思うべきです。
未承認治療は、先進諸国では厳しく規制されています。たとえばアメリカで未承認薬を実際に患者さんに投与する場合は、米国連邦法により、原則としてアメリカ食品医薬品局 (Food and Drug Administration; FDA) に臨床試験の申請をしなければなりません (参考文献 2) 。一方で日本では未承認治療に関する規制が緩く、たとえ効果がかなり怪しい治療法であっても、医師であれば自由診療で施行可能です。これは大きな問題だと思います。
インチキ・トンデモ医療の定義
怪しいインチキ・トンデモ医療は、次のようなものが該当します (参考文献 3) 。
- 科学的根拠 (エビデンス) に基づかない医療。
- 未承認で保険が効かず、自由 (自費) 診療で行われる。
- 患者さんに有害である (効果がない/ 費用が高い/ 真実を知らされていない) 。
「怪しいと言われても、お医者さんがやっている治療法だから信頼できるんじゃないの?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、医師がやっているから安心というのは間違いです。
例えば、がんに対する「ビタミンC療法」はこれまでの研究結果では、有効であるというエビデンスに乏しい治療 (参考文献 4) なのですが、「ビタミンCががんに効く」と言って、クリニックなどで自由診療で行っている医師も多くいるのが現状です。
保険の効く標準治療が最善・最高の治療
「保険の効かない自由診療は高額なので効果が高そう」と思うのは大きな誤解です。一般的に、標準治療が最善かつ最高の治療であり、それらには保険が効きます。日本は国民皆保険制度があるため、良い治療法の存在が新たに分かれば、例え高額だとしても保険適用になるのです。例えばニボルマブという免疫チェックポイント阻害剤は近年保険適用になりましたが、もし保険がなければ年間約1,000万円程度もかかる薬です。
2018年に、標準治療と代替治療の治療成績を比較した研究が報告されました (参考文献 5) 。転移のない乳がん、肺がん、前立腺がん、大腸がんの患者さんに対して標準治療 (化学療法、放射線療法、手術、ホルモン療法) を行った群と代替治療を行った群を比較したところ、両群で明確な違いがありました。下のグラフは、診断から月日が経つにつれて生存率が下がっていく様子を示していますが、標準治療群よりも代替治療群の方で生存率がより下がっています。
このように、がん治療ではほとんどのケースで保険適用の治療をやっていれば安心と思っていただいて良いですし、保険のきかない治療は怪しいと疑う必要があります。
ネットのがん情報の危うさ
正しいがん情報にヒットする確率は低い
Google アメリカ版と Google 日本版、Yahoo 日本版で肺がんについて検索した結果を調べた研究が2009年に発表されました (参考文献 6) 。2007年5月時点の検索上位50番までのサイトのうち、Google アメリカ版では標準治療を推奨するサイトが 80.0% であったのに対して、Google 日本版ではわずか 45.5% 、Yahoo 日本版では 37.0% のみでした。
このように、日本の検索エンジンの信頼性は十分ではないかもしれないのです。
広告は危ないと思ったほうが良い
インターネットで「がん治療」と検索すると広告記事が多く出てきます。検索エンジンによっては、検索結果の最初に広告記事が出ることもあり、広告だと気づかずに開いてしまうのも無理はありません。
広告を開くと、自由診療で数百万円単位の高額な治療が出てくることがあります。その中には、外国人向けと称して超高額医療を提供している場合もあります。そういった治療を求める外国の方は、日本の医療が最高レベルであると信じて来日されているのです。国際問題にもなりかねない事態であると考えられます。
「芸能人や医師も通う○○クリニック」や「最先端の治療」など、厚生労働省が定めた医療広告ガイドラインに違反している記載 (参考文献 7, 8) もよく見られます。こうした広告はまず危ないと思ったほうが良いです。
体験談は最も信頼性が低い
「このサプリを飲んで ○kg 痩せました!」「○○療法でがんが治りました!」といった体験談を見るとやりたくなってしまう気持ちも分かりますが、それが真実かどうかは示されていません。たとえその1人に効いたとしても、自分やその他大勢の人々に効くとは限りません。後ほど詳しく解説しますが、体験談は医療情報の中では一番信頼性に乏しいのです。
また、治療法の体験談を載せて宣伝することは、上述した医療広告ガイドラインでも禁止されており、医療法違反で違法行為になります。違法な医療機関を受診することは大変危険ですので、体験談を売りにしているホームページを見かけたら「危ない」と気づいて頂きたいです。
信頼できる情報の探し方
最新治療はあくまで研究段階にある
「最新治療」と聞くと、素晴らしい効果のあるものに聞こえてしまいがちですが、最新治療はあくまで研究段階にあるものです。治験などの臨床試験・研究を経て承認されるのですが、その過程で失敗するものもたくさんあります。つまり、多くの研究から勝ち残ったものが標準治療であり、標準治療こそが最善かつ最高の非常に素晴らしい治療なのです。
下の図は、医薬品開発の流れを示したものです。新薬の開発までの道のりは長く、細胞・動物実験を経て、人間を対象にした臨床試験・治験が行われます。ネズミに効くからといってヒトに効くとは限らないのです。2016~2020年のデータによると、最初は約50万5,000個の薬剤候補があったにもかかわらず、9~16年程度の研究でどんどん脱落していき、最終的に承認されたのはわずか23個の薬剤だけでした (参考文献 9-12) 。つまり、成功する新薬の割合はわずか 0.0046% = 約22,000分の1 であり、それだけの難関をくぐり抜けて国に承認された薬こそが信頼に値するのです。
未承認の最新治療は無償提供が原則
臨床研究・臨床試験は人間を対象とした医学研究であるので、倫理的、科学的に妥当であることが大切です。これは、1964年に世界医師会で採択されたヘルシンキ宣言に基づく考え方です。
そのため、特にがん等に対する未承認治療の臨床研究・臨床試験を行う際には無償提供が原則なので、お金をとっている場合は怪しいと思った方が良いです。研究段階にある最新治療については、「これは研究ですので、あなたにとって良い治療であるかは分かりません。効くかもしれないですが、逆に悪化させる可能性もあります。」と事前に伝える必要があるのです。
トンデモ医療はこういった倫理的、科学的に妥当なプロセスを踏まないので、ヘルシンキ宣言 (臨床研究倫理規範) というものに違反しています。具体的には以下のような問題を多く目にしてきました。
- 倫理委員会で許可されていない。
- 医学的に妥当と第三者が評価していない。
- 研究・実験的治療であるという情報を公開していないこと、そしてそれを患者さんに伝えていないことでインフォームド・コンセントの理念に反する。
- 本来は無償であるべきところ費用を徴収している。
このような非倫理的、非科学的なトンデモ医療は大きな問題になっています。
臨床試験で一番信頼できるのはランダム化比較試験
研究にはさまざまな手法がありますが、臨床試験で一番信頼できるのはランダム化比較試験です (参考文献 13) 。ランダム化比較試験では、数百〜数千名の患者さんをランダム (無作為) に振り分け、新規治療群と標準治療群に分けます。両者を長期的に比較して観察した結果、新規治療群に充分な効果があると分かった場合に初めて承認されます。
一例をあげると、ニボルマブ (オプジーボ) という薬の第3相ランダム化比較試験では、582名の患者さんの参加による信頼できる臨床試験の結果で有効性や安全性が確認されたことで、肺がんの治療薬として承認されました (参考文献 14) 。
一方で、がん治療としてのビタミンC療法は、たとえば飲み薬については、世界で最も権威のある医学雑誌のひとつである New England Journal of Medicine (NEJM) に掲載されたランダム化比較試験において、すでに1980年代に「効果が確認できない」と報告されています (参考文献 15, 16) 。
文献のエビデンスレベル (情報のランク付け)
臨床試験で一番信頼できる (エビデンスレベルが高い) のがランダム化比較試験だと説明しました。それでは、エビデンスレベルの低い (信頼度の低い) 情報は何でしょうか?
文献各々のエビデンスレベルは、下の図のようにピラミッドで表すことができます。今回はそれらの尺度の一つとして、米国臨床腫瘍学会 (ASCO Guideline Methodology Manual) や日本の EBM 普及推進事業 (Minds) が2007年に発表した「Minds2007」を参考に図を作成しました。臨床試験の中で一番高いエビデンスレベル3のところにあるのがランダム化比較試験で、下に行くほど信頼性が低くなり、エビデンスレベル7が一番信頼度の低い情報です。例えば、新聞や雑誌の記事、「専門家」の意見、体験談、試験管レベルの実験や動物実験などはすべて信頼度が最低の情報です。
American Society of Clinical Oncology. Guideline Methodology Manual. viewed 2 April 2と「診療ガイドライン作成の手引き 2007」を元に編集
ここで、クイズとして次の図の赤字を隠してエビデンスレベルを考えてみてください。
少し難しかったかもしれません。「1,000名の実績」や「著明な効果」と大々的に言っても、きちんとした臨床試験を経た結果でない限り信頼度は最低なのです。どんなに偉い人が言ったことでも間違っている場合があるので、懐疑的に考えることが大切です。
標準治療は診療ガイドラインに書いてある!
「エビデンスレベルの高い研究が信頼できると言われても、論文を読むなんてハードルが高いし、そもそもどうやって探せば良いの?」と疑問に思われたかもしれません。そんなときに役立つのが診療ガイドラインです。ガイドラインは、簡単に言うとエビデンスをまとめたものです。最善かつ最高の標準治療はガイドラインに書いてあります。ガイドラインは以下のようなサイトから読むことができます。
ガイドラインで推奨されていない治療を勧められたら、少し疑ってみるほうが良いです。
ウェブサイトの医療情報の規制
近年、美容医療サービスに関する情報提供によって消費者トラブルが発生していることなどを踏まえ、医療に関する広告規制の見直しを含む医療法の改正が行われ、2018年6月1日に施行されました。これによってウェブサイトの医療情報が規制されるようになりました。
例えば、以下のような表現が禁止されています (参考文献 17) 。
- 「当院は美容外科手術における脂肪吸引術の件数において日本一の実績を有しています!」と他の医療機関と比較する。
- 「モデルの〇〇さんが当院に来院されました!」と芸能人との関係性を強調する。
- 「全身脱毛3年間し放題」などの誇大広告 (実際には毛周期などの関係で回数は限られるが、「無制限」「し放題」「回数制限なく」の表記によって誤認を与える可能性がある。)
- 「がんを発生させないためには、催眠療法を利用したストレスの原因の明確化と軽減が必要です。是非当院にお越しください。」など、科学的な根拠が乏しい情報であるにもかかわらず、効果があると強調し受診を誘導する。
このような表現を、実際にクリニックなどのウェブサイトや SNS で見たことのある方も多いのではないでしょうか。これからはインチキ医療を見かけたら「医療機関ネットパトロール相談室」にどんどん告発しましょう!
正しい情報かどうか見極めるために
まとめると、インチキ医療に惑わされないために気をつけるポイントは3点です。
- データ元の記載を確かめよう! (学会、国、ガイドラインなどの公的なものかどうか。ただの体験談ではないか) 。
- 営利目的の宣伝ではありませんか? (サプリメント、自由診療などに誘導していないか)
- 誇大広告ではありませんか? (良い情報だけでなく、副作用もきちんと書いてあるか)
長文でしたが、最後まで読んでくださってありがとうございました。
騙されてしまう患者さんに罪はありません。私たち医療者が、インチキ医療に走ってしまう患者さんの気持ちをしっかりと聞いて丁寧に説明すれば、インチキ治療に騙されてしまう方は減るのではないかと考えます。
インチキ医療で苦しむ方が救われることを願っています。
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筆者は EPS 株式会社および日本臓器製薬から顧問料、シミック株式会社より治験研究費を受領しています。