寒い冬に気をつけたい「火だこ」って?なまはげ伝説の由来にもなった皮膚トラブルを専門医が解説

カテゴリ:皮膚科

公開日:2024/01/18/

まとめ

  • 暖房器具やノートパソコンなどで長時間にわたって肌が繰り返し熱せられると、「火だこ」を発症することがあります。
  • 火だこになると肌が網目状に赤くなったり色がついたりして、治るまでには何ヶ月もかかります
  • 秋田などの寒い地方では火だこは怠け者の象徴であり、この火だこを剥ぐのが「なまはげ」の役割でした。

冬は寒いので、ストーブやこたつなどの暖房器具を使う方が増えます。そんな時期に気をつけたい皮膚トラブルの一つとして、「火だこ」 (温熱性紅斑) という病気があります。「火だこなんて聞いたことがないなぁ?」と思う方も多そうですが、実は秋田県で有名な「なまはげ」は火だこが出来ている人を襲う神様です!昔から日本人にとって身近な症状だったと言えますね。本記事では、火だこの症状や注意点などについて皮膚科専門医が解説していきます!

この記事を書いた医師

江畑 慧

Satoshi Ebata

医師 / 皮膚科専門医 / 医学博士

Lumedia編集長。静岡皮膚科(2024年3月開業/静岡駅徒歩3分)院長。Yahoo!ニュース公式コメンテーター。 Lancet姉妹誌などに多数論文掲載。東大病院病院長賞などを受賞。適切な科学的根拠に基づくスキンケア情報を発信中。

「火だこ」とは

火だことは、長時間にわたって熱や赤外線に繰り返しさらされた部分の皮膚が、網目状に赤くなったり、色がついたりした状態を指します (参考文献 1) 。

火だこは手、すね、腰などにできやすいです。

火だこを招く熱源の種類と、それによって症状が出やすい部位の組み合わせとしては、次のようなものが挙げられます (参考文献 2,3) 。熱源に近づいた場所だけに症状が出るわけですね。

  • 暖房器具⇒すね
  • ノートパソコン⇒太もも / お腹 / 胸
  • 携帯電話⇒手 / 顔
  • カーヒーターやヒーター付き家具⇒腰やお尻
  • 温熱枕⇒顔や首
  • 熱いお風呂⇒全身
  • 料理人、パン職人、吹きガラス職人、鋳物職人⇒腕や顔

昔は囲炉裏 (いろり) やストーブなどの暖房器具による発症が多かったですが、最近では数時間使用して熱くなったノートパソコンや、充電中の携帯電話が原因のこともあります。数週間から数年間という長い期間にわたって、「酷い火傷にはならない程度の熱」に何回も接し続けることで、皮膚表面の血管が傷んでしまい発症します (参考文献 1) 。ノートパソコンや携帯電話などは日常的に利用するものですから、使用時に肌に近づけすぎないように注意すると良いでしょう

症状と治療は?

火だこは、「色の変化のせいで見た目が気になる」という問題がありますが、それ以外には症状が無いケースが多いです (参考文献 1) 。ヒリヒリ感やチクチク感を自覚する患者さんも一部いらっしゃいます。治療としては、「原因になった熱源に今後は近づかないようにする」のが大事です。それだけで自然に良くなっていくことがあります。ただし、治るまでには数ヶ月から数年間という長い期間を必要とします。また、残念ながら色が取れなくなってしまうケースもあります。色の変化を治すためにはトレチノインやハイドロキノンという塗り薬が有効ですが、これらは日本では保険適応外です。

なお、合併症はまれですが、火だこが「扁平上皮がん」という種類の皮膚がんに変化した例も報告されています (参考文献 1) 。そうしたケースでは、患部がガサガサと厚くなったり、潰瘍になったりという変化が見られます。火だこがなかなか治らない、悪化するというようなケースでは、お早めに皮膚科を受診してくださいね。

「なまはげ」伝説の由来

最後に、ちょっとしたトリビアを紹介します (参考文献 4,5) 。秋田では、火だこを方言で「なもみ」と呼ぶことがあります。今回の記事で説明したように、冬に囲炉裏の前でずっと過ごしている人は、肌が熱源にさらされ続けるので、火だこ、つまり「なもみ」を発症しやすいです。そのため、「なもみ」は、冬に仕事をしないで室内で暖を取ってばかりいる人、つまり怠け者の象徴だと考えられていました。

なまはげは、この「なもみ」を包丁などの刃物で剥ぎ取るためにやって来る神様であり、「なもみを剥ぐ」⇒「なもみはぎ」⇒「なまはげ」と呼ばれるようになったのです。怠け者から「なもみ」を剥ぐことで、1年間の怠け心と悪いものを剥ぎ取る、悪いものを払う意味がありました。新しい年は「なもみ」が出来る生活はせず勤勉に働くように、と怠け者を諫(いさ)めてくれる「ありがたい存在」だったのです。

なまはげに似た行事は、東北や北陸の寒冷地方に広く伝承されています。寒い地域でこそ、ついつい冬は囲炉裏の前ばかりで過ごす方が多く、火だこの発症が多かったのでしょうね。21世紀の今となっては囲炉裏を使うことは減っていますが、それでも冬場には暖房器具に近づきすぎて火だこにならないように気をつける必要がありますね。

予防を意識しよう!

以上、今回はなまはげ伝説の由来にもなった「火だこ」について説明しました。火だこはすぐには治りませんから、まず予防することが大事です。寒い時期にストーブに近づきすぎたり、ノートパソコンを太ももの上で使ったりすると火だこになりやすいですから、思い当たる節がある方は生活習慣を見直して頂けますと幸いです。なまはげに襲われたくない方は、火だこ予防に注意してくださいね。

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