まとめ
- 4℃よりも高温で保管された魚を食べると『ヒスタミン中毒』を起こすことがあります。
- 食後5分〜3時間程度で、蕁麻疹や頭痛、吐き気などを生じます。
- 加熱しても防げないので、鮮度が低下した魚は食べないようにしましょう。
皮膚科の外来で、次のような相談を受けることがあります。
「古いサバを食べたら、体にブツブツができてしまいました。これまではサバを食べても大丈夫だったのですが、自分はサバアレルギーになってしまったのでしょうか?」
確かに大人になってから魚アレルギーを新たに発症するケースもありますし、魚アレルギーのせいで蕁麻疹が出ることもあります。ただ、先程のエピソードの場合なら、まずは魚アレルギーよりも『ヒスタミン中毒』 (ヒスタミン食中毒と書かれることもあります) による症状を疑います。今回の記事では、誰もが経験しうるヒスタミン中毒について、皮膚科専門医がわかりやすく解説していきます。
蕁麻疹=アレルギーか?
まず、本題に入る前に、蕁麻疹について簡単に復習をさせてください。詳細は以前にあび先生が Lumedia で執筆された「じんましんにアレルギーの血液検査は必要?」との記事を御覧いただきたいのですが、
① 蕁麻疹は特にこれといった原因が無いケースが多い。
② 同じ食べ物で繰り返し蕁麻疹が出る場合には、その食べ物が原因かもしれないので病院で相談する。
というのが蕁麻疹に関する大原則です。
したがって、「新鮮な魚を食べた後に今回だけ蕁麻疹が出た」という場合は、魚アレルギーの可能性は低いと考えましょう。たまたまタイミングが被っただけで、魚とは無関係に蕁麻疹が起きている可能性の方が高いです (「魚を食べた後に蕁麻疹が出た」=「魚のせいで蕁麻疹が出た」とは言えない理由に関しては、勝俣先生が毎日新聞向けで執筆された「賢い医療情報の探し方~『3た論法』って知ってますか~」をご参照ください)。
傷んだ魚を食べると起きるヒスタミン中毒

一方、「古い魚」を食べた後の蕁麻疹や下痢、頭痛などの症状は、その魚のせいで起きている場合が多いです (参考文献 1)。ただし、魚そのものに対するアレルギーではなく、傷んだ魚の中で増えている『ヒスタミン』という成分が原因です。あまりアレルギーに詳しくない医師を受診していまい、魚アレルギーと誤診されていることもあります。
ヒスタミン中毒を引き起こす食材として、日本国内ではマグロ、カジキ、サバという赤身魚が多く報告されています (参考文献 2)。焼き魚や揚げ物などの加熱済みの食品による事例が多く、刺し身で起きる割合は低めです。魚以外ではチーズや鶏、ザワークラウトによって発症した例もあります。
マグロなどには、アミノ酸の一種である『ヒスチジン』という成分が多く含まれています。4℃よりも高い温度で保管された魚の中では、増殖した細菌がヒスチジンを分解して、蕁麻疹などアレルギー症状の原因となる『ヒスタミン』という成分を作ります (参考文献 1)。例えば20℃以上の環境に置かれた魚の場合は、数時間も経過すればヒスタミン中毒を起こしうるくらいの量のヒスタミンが魚の中に溜まってしまいます。
ヒスタミンが増えた食べ物を摂取すると、食後約5分から3時間のタイミングでヒスタミン中毒が生じることがあります。皮膚のブツブツ、顔の赤み、頭痛、吐き気、嘔吐などの症状が多く、他に下痢や動悸、目の充血や腹痛なども起こる可能性があります (参考文献 2)。こうした症状に気がついた人は、病院を受診して「室温で放置したマグロを食べた後に症状が出ました」などと医師にお伝え下さい。
参考までに、病院でヒスタミン中毒の治療を受ける際には、まずは『抗ヒスタミン薬』という飲み薬を使うのが一般的です (参考文献 1)。抗ヒスタミン薬の種類などについては、過去記事でまとめておりますので、気になる人は以下の記事をご参照ください。
ヒスタミン中毒を防ぐには

ヒスタミン中毒を防ぐために消費者が注意すべきポイントについては、厚生労働省が解説しています。その内容は次の通りです (参考文献 3)。
- 魚を購入した際は、常温に放置せず、速やかに冷蔵庫で保管するようにしましょう。
- ヒスタミン産生菌はエラや消化管に多く存在するので、魚のエラや内臓は購入後できるだけ早く除去しましょう。
- また、鮮度が低下した恐れのある魚は食べないようにしましょう。調理時に加熱しても分解されません。
- ヒスタミンを高濃度に含む食品を口に入れたときに、くちびるや舌先に通常と異なる刺激を感じることがあります。この場合は、食べずに処分して下さい。
特に、「加熱すれば大丈夫な訳では無い」というのは重要なポイントですね。傷んでいる可能性がある食材を、もったいないからと無理に食べないようにしてくださいね。
以上、今回の記事ではヒスタミン中毒について解説しました。普段はアレルギーには無縁の人であっても、食べたものが悪ければヒスタミン中毒になってしまうことがあります。普段から食材に気をつけるとともに、いざ困ったときには病院で相談するようにしましょう。
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本記事について、開示すべき COI はありません。