まとめ
- クラゲに刺されると、「クラゲの毒針」に含まれる成分と同様の成分を含む「納豆」へのアレルギーを発症することがある。
- マダニに刺されると、マダニと似た成分を含む「牛肉」などへのアレルギーを発症することがある。
- 身の回りの動物の成分が肌から吸収されると、類似成分を含む食品へのアレルギーを発症しうる。
以前に『食物成分配合化粧品などが招く食物アレルギーに注意!』という記事↓を公開しました。
「皮膚から吸収された化粧品成分のせいで、食物アレルギーを発症する」ということを意外に思った方も多かったのではないでしょうか?
今回の記事では、これに関連して「動物の成分が皮膚から吸収されることによっても食べ物アレルギーになるよ」という実例を紹介します。「サーファーに多い納豆アレルギー」を中心として、皮膚科専門医が解説していきます!
納豆アレルギーとクラゲ
納豆アレルギーの方への調査結果
ある不思議な調査結果があります (参考文献 1) 。横浜市立大学病院へ通う食物アレルギーの方々を対象とした研究です。
納豆アレルギーがある13名に「あなたはマリンスポーツの経験者ですか?」と質問したところ、なんと12名 (92.3%) が「はい」と答えました。しかも11名 (84.6%) がサーフィンの経験があり、サーフィン経験がない方は2名だけだったのです。参考までに、納豆以外の食物アレルギーで通院している127名については、マリンスポーツの経験者は4名 (3.1%) 、サーフィンの経験者は2名 (1.6%) だけでした。
驚くほどの差があるので、偶然とは考えにくいですよね。
納豆アレルギーとクラゲの関連
どうして、納豆アレルギーの方にはサーファーが多いのでしょうか?その鍵を握るのは、サーファーを悩ませる「クラゲ」だと考えられています。
サーファーはクラゲに刺される機会が多いですが、実は「クラゲの毒針」と「納豆の糸」には共通点があるのです (参考文献 2,3) 。それは、納豆のネバネバ成分である「ポリグルタミン酸 (poly-γ-glutamica cid:PGA) 」という物質が、「クラゲの毒針」と「納豆の糸」のどちらにも含まれることです。
サーファーはクラゲの毒針を介して皮膚からPGAを吸収してしまうことがあります。その結果、 PGA という成分に対してアレルギーを持つようになることがあります。
困ったことに、納豆の糸にも PGA が含まれます。そのため、クラゲの毒針のせいで PGA へのアレルギー体質になったサーファーは、口から食べる納豆に対してもアレルギー症状が出るようになるのです。
動物由来の食物アレルギーは他にも
動物の成分が皮膚などから吸収されることで発症する食物アレルギーは、他にもいくつも存在します。主な例は、
- マダニに刺される
⇒ マダニの消化管内にある「α-gal」という名前の成分が、ヒトの皮膚から吸収される
⇒ α-galを吸収したヒトが、α-galへのアレルギーを発症する
⇒ 牛肉/豚肉/羊肉/馬肉にもα-galが含まれるため、牛肉などにアレルギーが出てしまう
- 猫の毛や尿などに接する
⇒ それらに含まれる「Fel d2」という名前のタンパク質の一種が、ヒトの気道や皮膚から吸収される
⇒ Fel d2を吸収したヒトが、Fel d2と似た成分で同じくタンパク質の一種である「Sus s 1」という成分へのアレルギーを発症する
⇒ 豚肉にはSus s 1が含まれるので、豚肉にアレルギーが出てしまう - インコやオウムの羽毛や糞に接する
⇒ それらに含まれる「Gal d 5」という名前のタンパク質の一種が、ヒトの気道や皮膚から吸収される
⇒ Gal d 5を吸収したヒトが、Gal d 5へのアレルギーを発症する
⇒ ニワトリの卵にもGal d 5が含まれるので、鶏卵にアレルギーが出てしまう
などです (参考文献 2) 。この他に、お寿司屋さんで働いていた方が魚を触っているうちに魚アレルギーを発症するなど、職場で発症する例もあります (参考文献 4) 。
日常生活内で動物と接する機会が多い方は、それが理由で食物アレルギーを発症してしまうリスクが増すかもしれないのですね。
どのように対策すればいい?
今回の記事では、動物と接することで起きる食物アレルギーについて説明しました。おそらく皆さんご存知でない内容が多かったのではないでしょうか?
予防はなかなか難しいですが、納豆や牛肉などへのアレルギーを発症するのは辛いので、アレルギーの原因物質と皮膚が接しないようにすることが望ましいです。
ラッシュガード等でクラゲに刺されないようにする、虫よけ剤などでマダニ対策を行う、ペットの尿や糞が素肌に触れないようにするなど、対策を行ってみてくださいね。
マダニ対策についてはこちらの記事↓で詳しく解説していますので、ぜひ合わせてご確認ください。
COI
本記事について、開示すべき COI はありません。