『ヒルドイド』って何?有名な保湿剤について皮膚科専門医が解説

まとめ

  • 『ヒルドイド』は病院で処方される保湿剤で、ヘパリン類似物質という有効成分が0.3%配合されています。
  • ソフト軟膏/クリーム/ローション/フォームという4種類があり、いずれも高い保湿力がありますが、使用感などは異なるので季節などに応じた使い分けをすることができます。
  • ヒルドイドと同じくヘパリン類似物質が0.3%配合された後発医薬品や市販薬も存在しています。

ヒルドイド』という保湿剤の名前を聞いたことがある人、使ったことがある人は多いと思います。しかしながら、ヒルドイドの歴史やヒルドイド製剤の使い分けに関して詳しく知っている人は少ないのではないのではないでしょうか。
今回はヒルドイドに関して、基本的な知識を整理していきます。

この記事を書いた医師の名前

江畑 慧

Satoshi Ebata

『ヒルドイド』とは何か

ヒルドイドとは『マルホ株式会社』が国内で発売している塗り薬のことです (参考文献 1,2)。医療用医薬品なので市販はされておらず、症状に合わせて医師が処方します。
したがって「美容目的でヒルドイドを使う」のはNGですね。

国内での販売開始は1954年ですが、皮脂欠乏症 (乾燥肌) に対して処方されるようになったのは比較的最近で1990年のことです。それ以降、アトピー性皮膚炎などで乾燥肌に悩む方々に対して皮膚科医が広く処方するようになりました。

ここまでで「ヒルドイド?ヒルロイドじゃないの?」と思った方がいるかと思います。よくある勘違いなのですが、実際にはヒルロイドという製品は存在せず、『ヒルドイド』が正しい名称です。

ヒルドイド製品の種類と、作用メカニズム

ヒルドイド製品の種類

一口にヒルドイドと言っても、具体的には次の5製品があります (参考文献 3)。

  • ヒルドイドソフト軟膏
  • ヒルドイドクリーム
  • ヒルドイドローション
  • ヒルドイドフォーム
  • ヒルドイドゲル

このうち、ヒルドイドゲルは保湿剤として使われることはないので処方される機会は多くありません。今回の記事では、ヒルドイドゲルを除いた4製品のことについて説明しているとお考えください。

ヒルドイドの主な成分『ヘパリン類似物質』

ここからはヒルドイドの成分について解説していきます。まず、ヒルドイドには『ヘパリン類似物質』という有効成分が 0.3% 配合されています (参考文献 4)。これはヒルドイドソフト軟膏、ヒルドイドクリーム、ヒルドイドローション、ヒルドイドフォームの全てに共通しています。

このヘパリン類似物質には、皮膚に浸透して水分を引き寄せることで肌の潤いを保つ機能があり、皮膚のバリア機能を回復させたり炎症を抑えたりする作用が示されています (参考文献 1) 。ヘパリン類似物質以外で有名な保湿成分としては尿素やワセリンなども存在しますが、「ワセリンや尿素配合の保湿剤と比べると、ヘパリン類似物質配合の保湿剤は皮膚の痒みや肌荒れ再発を抑える効果が高い。」との報告がメタアナリシスという信頼性の高い研究手法の報告からなされていますもなされています (参考文献 5) 。
※メタアナリシスに関しては、こちらをご確認ください

『ヘパリン類似物質』以外の配合物

一方、ヘパリン類似物質以外の配合成分については、ヒルドイドソフト軟膏、ヒルドイドクリーム、ヒルドイドローション、ヒルドイドフォームのそれぞれで違いがあります。

例えば、ヒルドイドソフト軟膏には『スクワラン』や『サラシミツロウ』、『白色ワセリン』などの成分が含まれており「しっとり」した塗り心地ですが、ヒルドイドフォームにはこうした成分は入っておらずに「さっぱり」した塗り心地です (参考文献 4, 6)。そのためにヒルドイド各製品内での使い分けをすることがあります。例えば、マルホの推奨では「夏はさっぱりとした塗り心地のフォームやローション、冬はしっとりとした塗り心地のソフト軟膏やクリーム」という例を挙げています。

各製品の使用感については後日の別記事でもう少し詳しく説明する予定です。

参考までに、ヘパリン類似物質に対するアレルギーを生じるケースは非常に少ないですが、ヒルドイドに入っている他の成分へのアレルギーを起こす例が存在します (参考文献 4,7)。具体的には

  • ミリスチルアルコール:ヒルドイドクリームとヒルドイドローションに入っている成分
  • セトステアリルアルコール:ヒルドイドクリームに入っている成分

の二つの成分が、ヒルドイドクリームの使用者でアレルギー症状が出た症例の原因の多くを占めていたと報告されています (参考文献 5) 。例えばヒルドイドクリームが合わない方でも、これらの成分を含まないヒルドイドソフト軟膏なら使える可能性が高いのです。

ヒルドイドに似た成分の市販薬

後発医薬品 (ジェネリック医薬品) や市販薬について触れておきます。まず、ヒルドイドの後発医薬品については多くのメーカーがすでに発売しています。もちろんヒルドイドと同じく有効成分ヘパリン類似物質が 0.3% 配合されていますので、高い保湿力があります。ヒルドイドソフト軟膏、ヒルドイドクリーム、ヒルドイドローション、ヒルドイドフォームそれぞれに対応する後発医薬品があるのですが、これらについては長くなるので後日に別記事でまとめます。

次に市販薬についてです。記事のはじめの方で触れた通り、ヒルドイドそのものには市販品はありません。ただし、ヒルドイドと同じくヘパリン類似物質が 0.3% 配合された保湿剤自体は既に多数市販されていて、ドラッグストアなどで購入することが可能です。病院を受診するほどではない軽い乾燥肌の方は、ぜひ市販薬の活用をご検討ください。市販品については過去記事で詳しく解説していますので、気になる方はこちらをご覧くださいね

(ただし、少し前に書いた記事なので、すでに販売中止になっている製品もありますし、その後に新発売された製品もあります。その点はご注意くださいませ)。

以上、今回の記事ではヒルドイドについて解説いたしました。各製品の使い分けの詳細などは後日まとめますので、ぜひお待ちいただけますと幸いです

COI

本記事に関して、申告すべき COI はありません。

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