まとめ
- 白内障の根本治療である手術では、目の中に眼内レンズという人工のレンズを入れます。
- 眼内レンズには、複数の位置でピントが合って眼鏡が不要になりやすい『多焦点眼内レンズ』と、1点にしかピントが合わない代わりに物がくっきりとよく見える『単焦点眼内レンズ』の2種類があります。
- どちらのレンズにも長所、短所があるので、白内障の手術を受ける際には、どちらの眼内レンズが自分に合うのか主治医とよく相談しましょう。
白内障についてのおさらい
『白内障』という目の病気について一度は耳にした方は多いと思います。
白内障というのは加齢などの原因によって目の水晶体という部分が濁り、光が目の奥に届かなくなってしまうために視力が低下してしまう病気です。加齢がリスクとなるため、誰しもいつかは発症する可能性が高い病気です。根本的な治療は、濁った水晶体を取り除く手術しかありません。特に、視力の低下によって日常生活に支障をきたしている方は手術を受けることが望ましいです。
白内障の手術では、濁ってしまった水晶体の代わりに『眼内レンズ』という人工のレンズを入れるのですが、これには大きく2つの種類があります。
1つは『単焦点眼内レンズ』と呼ばれるもので、もう1つは『多焦点眼内レンズ』と呼ばれるものです。このどちらを選ぶかで手術後の見え方が大きく変わるのですが、2種類のレンズの違いについてご存じの方はほとんどいらっしゃらないと思います。
今回の記事では、ご自身やご家族が白内障の手術を受けるときに備えて、白内障手術で用いる 2種類の眼内レンズのメリット・デメリットについて、眼科医が徹底解説します!
白内障と手術に関しては以前に書いた「あなたも将来必ずなる!?白内障を眼科医が徹底解説!」という記事でより詳しく説明していますので、こちらもご覧ください。
眼内レンズとその種類
白内障手術で用いる人工レンズにはいくつかの種類があり、『単焦点眼内レンズ』と『多焦点眼内レンズ』に大きく分けることができます (参考文献 1) 。
単焦点眼内レンズは、ある1点にピントが合うように作られていて、物がくっきりとよく見えます。欠点はピントを調整することができないため、ほとんどの場合はメガネが必要になります (参考文献 1) 。
一方で、多焦点眼内レンズではピントがいくつかの点に合うため、多くの方がメガネが要らない生活を送ることができます。しかし、欠点は単焦点眼内レンズよりも少しぼやけて見えたり、暗いところでライトをまぶしく感じたりすることです (参考文献 1) 。
眼内レンズ選びのポイントは?
前の章では2種類の眼内レンズの違いについて説明しました。それでは眼内レンズはどのように選ぶのが良いのでしょうか。
多焦点眼内レンズは、単焦点眼内レンズに比べて、近くや中間の距離も見やすくなります。そのため、メガネを着けたくない人が良い適応となります。しかし、多焦点眼内レンズの種類によってはメガネが必要になる場合も少なくありませんので、絶対にメガネなしでの生活を保証はできません (参考文献 1) 。日本人 871名 を対象にした 2019年 の報告では、 68.4% の患者がほとんど、あるいは完全にメガネなしで生活できています。しかし逆に言えば、残りの 31.6% はメガネが生活に必要になっています (参考文献 2) 。
多焦点眼内レンズが向かない人もいます。多焦点眼内レンズは単焦点眼内レンズに比べて見え方の質を下げる可能性があります。例えば、カメラマンやデザイン関係の仕事をされている人は、見え方の質が仕事に直結しますので、多焦点眼内レンズが向かない場合があります (参考文献 1) 。
また、白内障以外の目の病気がある場合は、多焦点眼内レンズの機能を十分に発揮できないことがあるため、多焦点眼内レンズが向かない場合もあります。しかし、目の病気の種類や程度によって向き不向きが異なるので、主治医に確認してみると良いでしょう (参考文献 1) 。
眼内レンズによって費用はいくらくらい違うの?
これまで説明してきた2種類のレンズですが、費用面で大きな違いがある点には注意が必要です。単焦点眼内レンズの方は、すべて保険適用で治療を受けることが出来ます。通常の手術料金以外の追加料金は発生しません。
一方で多焦点眼内レンズは、まだ保険適用になっていません。すでに国内で承認済みの多焦点眼内レンズを用いる場合でも、「多焦点眼内レンズを使いたい」と希望する場合には、手術代だけではなく追加でレンズ代も患者さんが支払う必要があります。
承認済の多焦点眼内レンズに対して適用される制度は「選定療養」といい、保険の利かない予約診療や差額ベッド代などの「特別なサービス」に対して必要なオプション料金を指します (参考文献 3) 。
大まかな目安としては、片目で 20-30 万円程度の追加料金がかかるケースが多いようです。さらに、国内で未承認の多焦点眼内レンズを用いる場合には、先程述べた「選定療養」にも該当しません。そのため、手術代まで含めてすべてに保険が適用できなくなります。全額が自由診療で自費になりますので、これを選ぶ場合には費用面に関して担当医によく確認して下さい。
※眼内レンズ費用の違いはあくまで保険がきくかどうか、国に承認されているかの違いです。安いレンズほど質が悪い、高いレンズほど質が良いとは限りません。
医師と相談しながら自分にあったレンズを選びましょう!
以上、この記事では白内障の手術で用いる2種類の眼内レンズについて、それぞれのメリット・デメリットを比較してみました。まとめてみると以下の表のようになります。
このように、『多焦点眼内レンズ』と『単焦点眼内レンズ』とでは見えやすさや費用など多くの違いがありますので、ご自身やご家族のライフスタイルや好みに合わせて最適な選択をすることが大切ですね。その際にこの記事が参考になりましたら嬉しいです。
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