法医学ってどんな学問?

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まとめ

  • 法医学は、殺人事件の被害者を解剖しているところ、と思われがち。
  • 法医学は社会と医学を繋ぐ学問で、解剖や犯罪捜査以外にも関係している。
  • 今、生きて生活している私たちにも繋がる学問である。

近年、法医学教室を舞台とした『監察医 朝顔』、日本にはない法医学研究所を舞台とした 『アンナチュラル』など、法医学を題材にしたドラマが多く放送されましたね。また、長年続く『科捜研の女』シリーズでも、法医学教室が登場します。

いずれの作品も主に殺人事件を取り扱ったり、解剖するシーンが多かった印象です。

法医学は、実社会では皆さんとあまり関係がないと思われている学問なので、いろいろなイメージが先行しているように感じます。

今回の記事では、「そもそも法医学ってなに?」というシンプルな問いに答えていきたいと思います!

法医学を少しでも身近に感じていただければ幸いです。

この記事を書いた医師

きなこ技師@法医学

「法医学」を知っていますか?

そもそも、法医学とはどういう学問なのでしょうか。

1982年に法医学会によって「法医学の定義」が以下の通り定められました (参考文献 1) 。

法医学とは医学的解明助言を必要とする法律上の案件、事項について、科学的で公正な医学的判断を下すことによって、個人の基本的人権の擁護、社会の安全、福祉の維持に寄与することを目的とする医学である。

この定義から、法医学は「社会 (法律) と医学を繋ぐ学問」といえるでしょう。

法医学では何を調べるの?

ドラマのように「法医学者といえば解剖!」というイメージが強いかも知れませんが、法医学の対象は亡くなった人だけではありません。

具体的には生きている人や採取した物、書類を鑑定することもあります (参考文献 2)。

以下に法医学が扱う対象を列挙します。

  1. 生体
    • 個人識別 (乳児取り違え、親子鑑定など) 
    • 損傷 (虐待鑑定、傷害事件など) 
    • 薬物 (殺人未遂、デートレイプドラッグなど) 
    • 精神鑑定 (精神科医によることが多い) 
  2. 死体
    • 個人識別 (年齢、身長、病歴など) 
    • 死因 (病気、外傷、薬毒物など) 
    • 死後経過時間・死亡推定時刻
    • 損傷の有無、成傷の方法・種類・程度など
    • 自他、事故、災害
  3. 物体
    • 個人識別 (毛髪など人体の一部から、指紋など印象から) 
    • 薬毒物の分析 (血液、尿、胃内容など) 
  4. 現場
    • 主に警察
    • 現場の状況、残された物の鑑定
  5. 書類
    • 他の鑑定、裁判記録、カルテ等の鑑定・再鑑定

法医学の目的・意義とは

法医学の対象はかなり幅広い、ということがご理解いただけたかと思います。

では、法医学はどんな目的のもとに対象を調べ、鑑定し、研究するのでしょうか?

法医学で大きなウエイトを占める「死因究明」については、死因究明推進基本法の中で、基本理念として下記のように述べられています (参考文献 3) 。

  1. 死因究明等の推進 (基本理念)
    1. 生命の尊重・個人の尊厳の保持につながること
    2. 人の死亡に起因する紛争を未然 に防止し得ること
    3. 国民生活の安定及び公共の秩序の維持に資すること
    4. 医学、歯学等に関する専門的・科学的知見に基づいて、診療上の情報も活用しつつ、 客観的かつ中立公正に行われなければならないこと
  2. 死因究明の推進は、
    1. 死因究明により得られた知見が公衆衛生の向上及び増進に資する情報として広く活用されるとともに
    2. 災害、事故、犯罪、虐待等が発生した場合における死因究明がその被害の拡大及び再発の防止等の実施に寄与することとなるよう

行われるものとする

これを踏まえ、私自身の実務や経験から、法医学には下記のような意義があるといえると思います。

犯罪捜査

  • 亡くなった人、生きている人が対象
  • 損傷、検査結果が証拠になるうる
  • 被害者・被疑者の権利擁護にも繋がる

例) AがBさんを数カ所刺し殺害したとされる事件。Aは「最初に腕を刺した」と言っている。Bさんを解剖すると、腕の傷には生活反応は無かった。死因となった胸の傷には生活反応が見られたので、最初に胸を刺したと考えられる。Aの言っていることと、Bさんの解剖結果が一致しない。解剖結果を踏まえ捜査を進めていくと、Aが嘘を言っていたと判明した。

例) Aが運転する車でBさんをひき逃げし死亡させたとされる事故。Aは「路上で寝ているBに気付かず轢いた」と言っている。Bさんを解剖すると、立っている状態のBさんに車が衝突したと考えられる損傷があった。Aの言っていることと、Bさんの解剖結果が一致しない。解剖結果を踏まえ捜査を進めていくと、Aが嘘を言っていたと判明した。

例) AがBさんに睡眠薬を飲ませた事件。Aは「1錠しか飲ませていない」と言っている。Bさんの血液や尿を検査すると、たくさん服用したレベルの濃度が検出された。Aの言っていることと、Bさんの結果が一致しない。検査結果を踏まえ捜査を進めていくと、Aが嘘を言っていたと判明した。

被害者・遺族の権利擁護

  • 被害に遭えば、それに見合った保険・賠償がされなければならない (妥当性) 。
  • 亡くなられた場合、きちんと死因診断することで、遺族の心のケアにも繋がる。

例) Aさんが運転中に事故を起こした。Aさんを解剖すると、死因は急性心筋梗塞だった。事故により亡くなったのではなく、病気が原因で亡くなったとわかった。居眠りが原因と思っていた家族にも伝えられた。

防ぎうる死の予防

  • 同じ事が起きていないか?→事件、事故、災害の予防に繋がる。
  • 防ぎ得る死を防ぐ。

例) Aさん、Bさん、Cさんが同じ薬 (海外からの輸入薬X) を服用後に亡くなっていた。調査の結果、Xに有毒な物質が含まれていた。

公衆衛生の維持

  • 感染症の対応 (早急に対応しなくては感染が広がる) 
  • 災害時の対応 (特に亡くなった方に対して) 身元特定、死因診断

例) 海外から帰国したAさん、その数日後、同居する家族が亡くなった。解剖の結果、感染症だと判明し、他の家族を治療、接触した人の調査などが行われた。

例) 地震が発生、多数の死者がでた。身元特定や死因診断のために、医師・歯科医師などが従事し、家族の元にご遺体を返すことが出来た。

学問としての役割

  • 死亡診断書、死体検案書の発行 (亡くなった方の最後の公的な書類) 
  • 研究、教育へ繋げる

例) 亡くなった方の死因を診断し、死亡診断書を発行した。

例) 学会や論文など学術的な発表を行い、法医学だけでなく、臨床やその他にも情報発信する

最後に

法医学は、解剖だけではありません。

私たちが生活している上で起こりうる社会的な問題を予防したり解決したりするために、医学的な立場から知見を提供する学問です。

法医学は人権を守り、社会安全の維持に繋がります。

実感はないかもしれませんが、実は意外と身近な学問なのです。

この記事をきっかけに、法医学に興味を持っていただければ幸いです。

COI

本記事について、開示すべき COI はありません。

COIの開示基準については、日本内科学会の『医学研究の利益相反(COI)に関する共通指針』に準じています。より詳細はこちらをご覧ください。

参考文献