まとめ
- 歯みがきしたときの出血など初期症状が見られた時点での早期治療が、もっとも効率的な歯周病予防。
- 日常的な歯みがきは1日2回、2分間以上、フッ化物配合歯みがき剤の使用を推奨。
- 歯間ブラシなど歯間清掃補助器具は歯周病予防のために推奨される。ただし必ず使用する前に歯科専門家からレクチャーを受けること。
歯周病はみがき残しが同じ場所に長期間存在すると発症します。歯肉の腫れや出血はそれを教えてくれるバロメーター。放置すれば将来歯を失う原因に。ひとりひとりにあった歯みがき方を見つけるには、歯科専門家と一緒に考えるのが近道です。
なお本記事では歯周疾患の大部分を占め、一般的に歯周病そのものとして扱われる「プラーク性歯肉炎および慢性歯周炎」について説明します。
歯周病とはどんな病気?
歯肉が腫れたり痛んだりする歯周病は、進行すると歯がグラグラと揺れ、しまいには抜けてしまう病気です (参考文献 1) 。古くは歯槽膿漏 (しそうのうろう) ともいわれ、下に示した厚生労働省の図からもわかるように歯を失う理由としてはむし歯や外傷を抜いてトップとなっています。
歯周病の恐ろしいところは、受診のきっかけとなる強い痛みや歯の揺れなどといった症状が末期的な状態になるまで現れないこと。そこまで進行すると既に数本以上は抜歯するほかないという診断になることも多く、歯科関係者は「沈黙の病気」と呼ぶこともあります。
そのような重度歯周病の有病率は全世界で 11.2% 、6番目に多くの患者をもつ病気です。歯を失うと会話や食事に不自由し、自信を喪失し社会生活にハンデを背負うことになります (参考文献 2) 。
歯周病を防ぐために何をすればいい?
歯周病の原因はプラーク (歯垢) です。プラークはお口の中の常在菌が作るベトベトした付着物で、排水溝の水アカに似た構造を持っています。このように不潔な微生物のカタマリであるプラークは歯と歯肉の境目に溜まりやすく、そこから歯肉の中へと微生物が入り込んできます (参考文献 1) 。
侵入してきた微生物に対して身体は炎症という防御反応を起こし、歯肉は充血して赤く腫れあがり、触ると痛みを感じたり、簡単に出血したりするようになります。この状態は「歯肉炎」と呼ばれる歯周病の初期段階で、歯みがき時の痛みや出血として自覚することができます。
歯肉炎は適切な対応をすることでほぼ後遺症なく治療できますが、長く放置すると炎症の影響で歯を支える骨が溶けていく「歯周炎」という段階に進みます。一度失った骨は元通りに回復することはないので、治療したとしても顕著な歯肉退縮や歯の動揺など後遺症を残します (参考文献 1) 。
以上をふまえてもっとも効率的な歯周病の予防法は、後遺症が残らない歯肉炎のうちに早期治療すること (参考文献 2) 。具体的には歯肉から出血があったなら歯科受診するよう推奨されています (参考文献 3)。
いまから自分でできることはある?
歯周病の原因はプラークなので、その予防には歯みがきによるプラークコントロールが重要です (参考文献 1) 。歯科専門家から直接指示を受けている場合を別として、お読みいただいている皆さんにお勧めするのは、歯周病予防に特化した方法よりも、むし歯予防にも有効なように1日2回、2分間以上、フッ化物配合歯みがき剤を使用した歯みがきを行うことです(参考文献 4)。
その理由は2つあり、1つは歯周病を意識するあまりむし歯リスクが上昇してしまうのは望ましいことではないから。もう1つはそれでも歯肉から出血があるならばセルフケアだけでの解決は難しい何らかの理由があるため、歯科専門家による診断が必要となるからです。
また既に歯肉が下がって歯と歯のスキマが広がっているかたは、歯間ブラシなどを用いた適切な対応を追加する必要があります。十分な効果を発揮するためにはジャストフィットするサイズを選ばなければならず、挿入方向が正しくないと歯肉の外傷に繋がるおそれもあるので、歯科専門家によるサイズあわせとレクチャーを受けてから使用開始するようお勧めします (参考文献 2) 。
[※歯みがきなどによるプラークコントロールの詳細については、今後の記事で紹介する予定です]
ここで最新の統計調査を見てみると、多くの日本人の歯みがき回数は1日2回以上 (参考文献 5) 。つまり歯科医師として実際に重度歯周病で来院する患者さんを拝見すると「自分なりに一生懸命に歯磨きしているのに、実際には十分なプラーク除去ができていない」ケースが大多数であると印象を受けています。
残念ながら誰が使ってもプラークコントロールが大幅に改善する道具は存在しません。それはひとりひとり歯並びや骨格、指先や歯肉の感覚に個性があるためです。
もし歯みがきを見直す必要があるならば、うまくいかない理由を発見分析することができ、豊富なレクチャーの経験とテクニックの引き出しをもつ歯科専門家と一緒に協力して模索するのが、あなたにあった方法を見つける近道です (参考文献 1,2) 。
COI
参考文献 1および2は、歯ブラシ・歯間清掃器具・洗口剤を含む広範な歯科衛生用品を開発販売する企業がスポンサードしている、国際的な学術会議より発表されたコンセンサスレポートです。ライター個人に COI はありません。