妊娠中に気をつける薬・飲んではいけない薬

まとめ

  • 妊娠中でも治療のために薬が必要な場面は多い。自己判断で中止するとかえって妊婦自身にもお腹の中の赤ちゃんにも危険!
  • 赤ちゃんへの影響は、妊娠初期では奇形、中後期は臓器障害が問題となることが多いです
  • 妊娠に関連する薬の不安は専門窓口で評価でき、個別薬剤のデータに基づき説明を受けられる体制が日本では整備されている。

妊娠中、薬は一律に禁止されるわけではなく、妊婦の治療上の必要性と胎児への影響を秤にかけて判断することが大切です (参考文献 1) 。しかしながら、妊娠がわかった瞬間から、「いつもの薬は続けてよいのか」「市販薬を飲んでしまったが大丈夫か」といった不安が一気に現実味を帯びます。実際、妊娠や授乳と薬に関する調査では、妊娠に気づかず服薬して不安になった経験、自己判断で薬を我慢した経験をされた方が一定数いらっしゃった事が分かっています (参考文献 2) 。この記事では、妊娠中の薬の考え方、避けるべき薬が生じる理由、迷ったときの相談についてわかりやすく解説します。

この記事を書いた医師の名前

佐伯 信一朗

Saeki Shinichiro

妊娠中の薬の影響

妊娠中の薬の影響は、妊娠直後・器官形成期・妊娠中期以降で大きく異なります。受精からおよそ2週は、重大な障害が生じると妊娠継続が難しくなり、軽微なら修復されてその後は問題なく発育が続くとされています。一方、器官形成期と呼ばれる妊娠初期 (最終月経開始日から数えて 4〜8週目) は重要臓器が形成される時期であるため、薬の影響が身体の構造や形状の異常として現れやすい時期です。その後、妊娠中期以降は奇形が生じる可能性は比較的小さくなりますが、薬が赤ちゃんの腎機能や循環動態などに影響する可能性が出てくるため、別の注意が必要になります (参考文献 1) 。

ここで重要なのは、妊娠中に薬を飲んだら必ず悪い結果になるという単純な話ではない、という点です。全く薬を飲んでいなくても奇形などの先天的な異常や流産は一定割合で起こります。そのため、薬に曝露した場合は、元々からある妊娠中のリスクと比較しつつ、薬による影響がどの程度上乗せされるかを見積ることが大切になります (参考文献 1) 。

また、妊娠中の服薬判断は、基本的に薬の効果と生じうる不利益のバランスがポイントとなります。たとえば、喘息、高血圧、てんかん、精神疾患などは、妊婦の病状悪化が妊娠の継続や赤ちゃんにとって不利益をもたらす可能性があり、薬をやめること自体が重大な危険性を持ちます。したがって妊娠したから中止するのではなく、その薬を続けない場合の危険性と続けた場合の赤ちゃんへの影響を比較することが非常に重要となってきます。妊婦に使用してはいけないとされる薬であっても、実際の臨床では使用禁止とされる根拠や曝露時期、用量などを踏まえて個別に評価が必要です (参考文献 1) 。

次に、市販薬やサプリも含めて自己判断を挟まないことが大切です。妊娠中は症状が軽くても不安が強くなりやすく、逆に症状が強くても薬を我慢してしまうことがありますが、薬を使うべきか避けるべきかは成分、用量、妊娠週数で変わるため、医師や薬剤師に相談するようにしましょう (参考文献 2) 。

妊娠中に避けたい薬・注意が必要な薬

妊娠中に注意が必要な薬には大きく2つのタイプがあります。1つは催奇形性 (奇形が生じる可能性) が指摘されていて、妊娠中は厳格に回避すべき薬です。代表例としてレチノイド (ビタミンA誘導体) があります。ビタミンAは必須の栄養素ですが、過剰摂取すると赤ちゃんに奇形が生じる危険性が指摘されています。そのため、妊娠3か月以内または妊娠を希望する女性は、健康食品やサプリメントによる高濃度・継続的な過剰摂取を避けるべきと注意喚起されています (参考文献 3) 。栄養だからといっていくら摂っても安全ということではなく、摂取する量が多くなると有害になりうるので注意が必要です (参考文献 3) 。 

もう1つは、妊娠週数によって使用禁止かどうかや推奨される量が変わる薬です。薬によっては、妊娠初期では赤ちゃんへの影響が見られないものの、妊娠後期に胎児循環や腎機能などへの影響が問題になりうるものがあります。同じ成分でも妊娠時期で評価が変わるのです (参考文献 1) 。したがって、一概に「この薬は妊娠中だめ」となるわけではなく、妊娠初期では避けた方が良いと言われた薬が後で許可されることもあれば、その逆もあります (参考文献 1) 。今の自分の状態では使っても問題ないのか、逐次医師や薬剤師に確認するようにしましょう。

妊娠中の薬の使い方

妊娠中は原則として、必要な治療は止めない、ただし不要な曝露は増やさないことを意識します (参考文献 1) 。必要な治療を止めない、というのは持病だけの話ではありません。感染症や強い疼痛など、治療が遅れることで妊婦の体調が悪化する場面でも同様です。一方、不要な曝露を増やさないというのは、最小有効量、最短期間、薬の種類を絞ること、妊娠週数に応じた薬剤選択を行うことでできるだけ薬に暴露する量を減らすように気をつける事です (参考文献 1) 。また、今後妊娠を計画していく場合は、妊娠前の段階で使用している薬の種類や量を整えておくことができるだけ不安な要素を減らしていく対策となります。妊娠を考え始めたら、妊娠前から医師とよく相談し、必要に応じて減量、中止、より安全な薬への変更を検討することが重要です (参考文献 2) 。

悩んだときの相談先

日本では厚労省の事業として国立成育医療研究センター内に妊娠と薬情報センターが設置されており、全国の拠点病院でも相談を受けられる体制が整備されています (参考文献 4) 。ここでは相談後に任意で追跡調査を実施し、妊娠の転帰や赤ちゃんの予後に関するデータを収集することで、妊娠中の薬剤使用の安全性を保証する取り組みも行っています (参考文献 5) 。 

授乳期についても、同センターは国内外の研究に基づいた薬剤リストと考え方を公開しています。授乳中に安全に使用できると考えられる薬について、相談が多い薬を中心に評価し、紹介しています (参考文献 5) 。妊娠中と授乳中では安全に使用できる薬や避けた方が良い薬が異なることがあるため、出産後も継続して飲む必要のある薬がある場合は、授乳の観点で再評価するのが安心です。

お薬を飲んでしまって不安な時

妊娠に気づかず薬を飲んでしまった場合はどうすればよいか、という疑問を持つ人は多いのではないでしょうか。このような場合、薬剤名、用量、服用期間、最終服用日、妊娠週数を整理して産婦人科でご相談頂き、必要であれば専門窓口に相談するのが適切です (参考文献 1,4) 。妊婦が飲んではいけないとされる薬であっても、その理由や内服状況により評価は変わりうるため、まずは専門機関に相談することが重要です。 

そして、市販薬に関しては薬剤師に妊娠中であることを伝えたうえで選択するのが安心です。市販薬は成分が複数入っている事が多く、妊娠週数で注意点が変わる成分も混在するためです。

また、サプリメントは安全か、という問い合わせも多いですが、葉酸のように妊娠前からの補充が推奨されるものがある一方で、ビタミンA のように過剰摂取が問題になるものもあります (参考文献 1,3) 。特に妊娠 3か月以内 または妊娠を希望する女性がビタミンA を高濃度に摂取することに対する注意喚起は、公的資料で繰り返し示されています (参考文献 3) 。妊娠を考えている女性はあらかじめそういった点も注意してサプリメントを使用していくのが望ましいです。

COI

開示すべきCOIはありません。