遅延型IgGフードアレルギー検査って意味あるの?テレビの健康情報にご注意を!

カテゴリ:アレルギー

公開日:2022/08/25/

最終更新日:2022/09/25

まとめ

  • 『遅延型IgGフードアレルギー検査』がテレビや雑誌などで話題になっています。
  • この検査は無意味であり、日本アレルギー学会が否定済みなので受けてはいけません。
  • 食物アレルギーに関しては根拠ある情報を参照しましょう!

『遅延型IgGフードアレルギー検査』という、自費診療での検査について聞いたことがある方はいらっしゃいませんか?この検査を取り扱う業者やクリニックなどは「特殊な採血検査を受ければ『隠れアレルギー』が簡単に見つかって頭痛・腹痛・不眠などのトラブルを解消できる!」と宣伝しています。

驚くことに、この検査は大手メディアでも頻繁に取り上げられており、現在一部でブームになっています。実際にテレビの人気番組で取り上げられたケースを見てみましょう。

2019年に放送された『世界まる見え!テレビ特捜部』は、このアレルギー検査を「便利で素晴らしい検査だ!」と視聴者に紹介しました。番組内では、タレントの松村邦洋さんが『遅延型IgGフードアレルギー検査』を受けたところ、「村松さんが実は牛乳/卵白/カゼイン/オート麦/エンドウ豆/醸造用イースト/ピスタチオ/トウモロコシ/製パン用イースト/大麦/白米など計12種類の食べ物に対して隠れアレルギーを持っていることが判明しました!」と解説されました (参考文献 1) 。

2019年9月2日放送『世界まる見え!テレビ特捜部』より

『世界まる見え!テレビ特捜部』が説明したように、もし本当に採血だけで体調不良の原因が分かるのであれば、確かに素晴らしいことのように思えますよね。それでは、皆様も村松さんのように『遅延型IgGフードアレルギー検査』を受けてみるべきなのでしょうか?今回の記事では、この話題の検査が「本当に有意義なものなのか?」について解説していきます。

この記事を書いた医師

江畑 慧

Satoshi Ebata

医師 / 皮膚科専門医 / 医学博士

Lumedia編集長。静岡皮膚科(2024年3月開業/静岡駅徒歩3分)院長。Yahoo!ニュース公式コメンテーター。 Lancet姉妹誌などに多数論文掲載。東大病院病院長賞などを受賞。適切な科学的根拠に基づくスキンケア情報を発信中。

『遅延型IgGフードアレルギー検査』ってなんですか?

まず、そもそも『遅延型IgGフードアレルギー検査』のコンセプトについて確認してみましょう。この検査は『血中食物抗原特異的IgG抗体検査』などとも呼ばれていて、取り扱っている業者の宣伝を信じる限りでは、IgG抗体という成分に着目して、

  1. ある食べ物に対する『IgG抗体』というタンパク質が血液中にあるかどうかを調べます。
  2. 『IgG抗体』が陽性 (+) なら「遅延型IgGフードアレルギーがある」と判断します。
  3. その食べ物が頭痛や腹痛、不眠など体調不良の隠れた原因なので、今後は陽性と指摘された食べ物を摂取しないようにしましょう。

ということのようです。一般の方がこの説明だけを聞くと、「論理的で良い検査なんじゃない?」と思われるかもしれません。ですが、結論から述べると、この検査は全く推奨できません!

すでに2014年には日本小児アレルギー学会、2015年には日本アレルギー学会が「健康被害を招く恐れがあり推奨できない」と明言しています (参考文献 2,3) 。

『遅延型IgGフードアレルギー検査』はどうして信用できないんですか?

学会からも公式な発表がなされている通り、『遅延型IgGフードアレルギー検査』とは、アレルギーの専門家は全く相手にもしていない不可解な検査なのです。では、先程の宣伝文句のどこに問題があるのでしょうか?

実は、そもそも、「②『IgG抗体』が陽性 (+) なら「遅延型食物アレルギーがある」と判断する」という部分について、全く適切な科学的根拠が存在しないのです。
「遅延型IgGフードアレルギー検査を信じてはいけない理由」に関して日本アレルギー学会がHP上で記載している内容を簡単にまとめると、

  1. ある食べ物に対する『IgG抗体』は食物アレルギーが無い普通の方にも存在するので、診断に役立ちません。
  2. むしろ過去にたくさん食べたものほど、『IgG抗体』のレベルが上がります。
    ※ つまり、安全に食べられる好物ほどIgG抗体が高く、食物アレルギー陽性 (+) と誤って判定されやすいです。
  3. 検査結果を信じると、健康上の問題が全くない食物まで摂取できなくなり、食事内容が偏って健康被害の恐れがあります。

と解説されています (参考文献 3) 。

『遅延型IgGフードアレルギー検査』の宣伝文句には、日本アレルギー学会HPで解説されているような、正しい内容がまるで見当たりません。正しいどころか事実とは真逆なのですね。『遅延型IgGフードアレルギー』という概念自体が宣伝業者が作り出した無根拠な存在であり、検査で見つけられるわけがないのです。

医学的な意味は認められず、検査結果によっては無駄な心配をさせられるだけですから、各学会の警告通り、『遅延型IgGフードアレルギー検査』を受けるメリットはありません。しかも、『遅延型IgGフードアレルギー検査』は自由診療として行われており、高い金額がかかることも少なくありません。せっかくの大事なお金を、こうした不必要な検査に費やすのはもったいないですよ!

テレビの健康情報って本当に正しいんですか?

恐ろしいのは、学会が公式に否定した検査であるにもかかわらず、いまだにテレビなどで大々的な宣伝が繰り返されていることです。日本アレルギー学会の声明が出た2015年以降、確認出来るだけでも下で列挙したテレビ番組で『遅延型IgGフードアレルギー検査』が好意的に紹介されてきました (参考文献 4-9) 。
皆さんが普段から見ている番組もあるのではないでしょうか?

  • 2016年 日本テレビ『ザ!世界仰天ニュース』
  • 2016年 TBS『S☆1PLUS』
  • 2017年 TBS『ビビット』
  • 2018年 テレビ東京『生きるを伝える』
  • 2019年 日本テレビ『世界まる見え!テレビ特捜部』
  • 2019年 TBS『王様のブランチ』
  • 2019年 TBS『爆報!THEフライデー』

たとえば、冒頭で説明した『世界まる見え!テレビ特捜部』の企画で「牛乳 / 卵白 / カゼイン / オート麦 / エンドウ豆 / 醸造用イースト / ピスタチオ / トウモロコシ / 製パン用イースト / 大麦 / 白米は食べていはいけません」と、明らかに不適切な説明を受けた松村邦洋さんが健康被害を受けていないのかが、医師としては非常に心配です。

これらの食品は、身体に大切な栄養を多く含んでいます。本当にアレルギーのある食べ物を除去するなら仕方ないですが、実在しないアレルギーの説明を信じて多数の食品を除去してしまうと、栄養が偏ってしまいます。

一般の方は「TVで放送されている情報は信頼できる」「TVに出ている医師は名医に違いない」と信じているかもしれませんが、実際はそうではありません。むしろ、「適切な根拠が示されていない」健康情報がメディア上にはあふれていて、これらを信じると健康被害を受けるおそれがあります。

誤った健康情報を信じてしまうと、ご自身やご家族に大きな悪影響が出ます。
「こんな健康情報があるんだ!」と安易に信じず、「これって本当に正しいのかな?」と立ち止まって考えてみることが大切です。

食物アレルギーは、適切な科学的根拠を欠く検査の宣伝が目立つ分野です (参考文献 10) 。

「Lumediaや厚生労働省のHP等で出典のある信頼できる情報を探す」「信頼できる専門の医師に相談する」などの対応を心がけて、皆様の健康を守りましょう!

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